石井裕介


 劇団さくらの稽古は知的障害者でもある団員にとって、けっして楽しいだけではありません。ハードなト レーニングもあれば難解な質問も浴びせかけられます。そんな最中にも何時も明るい元気な団員たちは、と きに指導する者にドキッとさせる発言や行動を起こします。しかし、こんな発言や行動にこそ彼らや私たち 指導者を成長させるヒントが隠されているのです。

 

6月21日(月)『上手い人がもっと頑張れば下手な人が目立たなくなる・ ・ ・ 』

 2月1日から始まった基礎訓練も通算20回を越え、今日はステップとジャンプの中間テストを行いました。 ステップは順・逆それぞれとカウントを入れたジャンプです。  ステップは動的・静的バランスと体重移動を確実に行えることを目的とし、カウントを入れたジャンプは 予測の運動性獲得のためのプログラムですが、結果はジャンプの方が悪かったことは言うに及びません。

 4カウントの1でジャンプする場合、その前の4にストップを起こし“ため”を作らなければ確実なジャンプ ができないためですが、現在の団員たちはそこまでの運動性は獲得できていないことを表しています。

 しかし、今回のテストの目的は単に運動性のテストだけではなく、指導者・団員全員の前で一人ひとりが どれだけ結果を出せるか“自立性”に重点を置いたテストでもあったの ですが、この面では予想した通り、全員(テストにならない1〜2名を除き)が普段の稽古−−−−−−− よりかなり高い運動性を示し、誰もがかなり良い結果を出しました。

 


 さあ!突然ですが、このトピックスをお読みの方に問題です!

Q. 『上記の“予想した通り”とは何を予想したのでしょうか?』・・おわかりかな?
      ・・・・(考える制限時間15秒の問題です)・・・・

A. 『答えは“集中力による結果を予想した”が正解です』

 現在のところ彼らは自分の行動を評価できるまでには至っていません。即ち「自分はもっと上手いはず・ ・」とか「下手に見られたらどうしよう・・」というような俗にプレッシャーと言われる精神構造は今のと ころ持ち合わせていないと言うことです。  従って全員が“自分を真剣に見ている”というテストが稽古場の環境全てに“一つのことに集中”する要 因を生み、結果として“集中力”がより高い効果を現わしたのです。

 『うちの子たちは本番に強いのです・・』『稽古はあまりできなかったけど、うちのメンバーは本番では すごく上手いのです・・』こんな言葉をアマチュアや障害者のステージでよく耳にします。

  ・・気をつけましょう!注意しましょう!「甘い言葉と暗い道・・」

本番では稽古より出来が悪くて当たり前です。しっかり稽古をし、プレッシャーをよい緊張に変えてリラッ クスできなければ“完璧”なステージなどできません。完璧を求めて稽古を重ねることこそ、舞台人として 生きる人の努めなのです。

それでは今回の“格言”です。

 『上手い人がもっと頑張れば下手な人が目立たなくなる・ ・ ・ 』(劇団員O君の言葉)  これは、テストの評価を指導の総括である私が全員個々に伝えた後に、O君が発言した言葉ですが、劇団 員の多くはこの意見に同意しました。

さあ!またまた突然ですが、問題です!

Q. 『この場にあなたがいたらどんな意見を発言しますか?』・・おわかりかな?
      ・・・・(考える制限時間“一生”の問題です)・・・・
A. 『答えは・・私にも分かりません・・・スミマセン・・』

 彼らはときどき、私たちの人生さえ変えさせかねない言葉を、いとも簡単に発します。 この言葉も私たちにとって、とても難解な言葉です。一般的な「下手な人がもっと頑張ればいいんだ・・」 では済まされない内容を含んでいます。また、彼らは私たちが考える以上にお互いの障害を認識し、能力差 を人格差として考えていません。何故なら殆どの団員がこの意見に同意したからです。  この問題に対する指導力を問われた私は、作品を完成させる過程で答えを出さなければならなくなりまし た。・・・皆さんはどうお考えですか?・・・